ログイン「姫ー。材料はこれで全部かー?」 「あ、透馬お兄ちゃんっ、ちょっと待ってねっ」 美鈴ちゃんが透馬さんに呼ばれて、包丁片手にキッチンを出た。 「鈴。駄目だよ。危ない」 流石、棗さん。スマートに美鈴ちゃんから包丁を受け取りキッチンに戻って行った。 一方玄関へ向かった美鈴ちゃんの後を追うと、そこにはアイスボックスを二つ両肩に下げた透馬さん。段ボール二箱に野菜を山盛りにして持っている大地さん、そして紙袋を持っている奏輔さんが立っていた。 今日は近くの川で花火大会がある。 本当ならそこに出店もでていて、お祭りに行くのもいいかなと予定を立てていたけれど。 『あ、わ、私はいいや。こんな街中のお祭り…男がいっぱい…』 と鶴の一声ならぬ、美鈴ちゃんの一声で白鳥家の二階。鴇さんの部屋の隣にある広いバルコニーで花火を見ながらバーベキューをしようって事になった。 「わーいっ。お兄ちゃん達ありがとーっ!」 「食べ盛りが一杯いるんだ。これ位の補充は当然だろ」 「だねー。…足りるかなぁー?」 「えっ?これでも足りないのっ!?」 美鈴ちゃんが目を白黒させている気持ちが痛いほど解る。だって僕も同じ気持ちだったから。 これだけあっても足りないとか…どれだけ食べるんだろう…? 「足りなかったら追加したらええやん。あと、優兎。お前はもうちっと食べなあかんよ?」 う…トバッチリが来た…。 正直お肉より野菜の方が好きな僕としては頷き辛い。 「そうそう。優兎くん、好き嫌いは駄目だよー」 どやぁっ。 美鈴ちゃんが胸を張ってるけれど…。美鈴ちゃん、そのセリフ。美鈴ちゃんにだけは言われたくないよ? そう思っていると、 「鈴ちゃんはその台詞言う権利ないと思うよ?」 葵さんが代弁してくれた。うんうんと僕も頷く。 「お前ら、そこでたむろしてないで、必要な物上に運ぶの手伝え。庭の物置にバーベキューの一式があるから」 リビングから鴇さんが顔を出した。 「ほな、俺が行くわ。透馬も大地もそれ運ぶ必要あるやろ?」 「いや。全員で来い。リビング経由して縁側からサンダル履いて庭に行くから問題ないだろ」 「炭やらコンロやら運ぶのはありそうだしな」 「了解ー」 全員でリビングへ戻ると、持って来た食材を全部テーブルの上に置いて、鴇さん達は縁側から庭の物置へ歩いていった。 「よー
「良いから、それ寄越せっ!」 「だから、嫌だって言ってるじゃないですかっ!」 さて。どうしたものか。 俺と言う壁を挟んで、妹と多分妹のクラスメートが攻防戦を繰り広げている。 「アンタが持ってても仕方ないだろっ!」 「そう言う問題じゃないですっ!これは絶対に捨てるのっ!」 捨てる? 美鈴は一体何を持ってるんだ? 自分の足にしがみついて隠れている美鈴の手を見ると一枚の手紙が握られていた。 何だ?それは? じっと見ているとそれに気付いた美鈴が手早く着ていた上着のポケットに二つ折で突っ込んで隠してしまう。 「おいっ、いい加減にしろよっ!それはおれが貰った」 「絶対渡しませんっ!それにあげた覚えもありませんっ!」 ぎゅっと俺の足にしがみつく美鈴。 さっきからこの状態が続いている。 今日はたまたま授業も早く終わり、商店街を通って帰って来たんだが、その向こうから男子生徒に追われた美鈴を見つけて。 美鈴も俺の存在に気付き、俺の足に飛び付いてきた。 その男子生徒は一瞬俺の顔を見て怯んだものの、直ぐにどやっとまるで自分が俺より上かのような態度でこちらを見てきた。 正直、…このクソガキが、と思わなくもない。 だが、美鈴がそいつの何かを奪い取ったようだったので何も言わないでいたのだ。 けど、今現在の攻防戦を見て、何か言った方が良かったのかと俺はただただ首を傾げている。 「と、鴇お兄ちゃんっ。も、もう行こうよっ!お家帰ろうっ!」 美鈴が訴えて来ているから、とりあえずそれに頷く事にして俺は美鈴を抱き上げた。 「…お前、ほんっと軽いままだな…」 「そ、そんな事ないもんっ!鴇お兄ちゃん達が力持ちなだけだもんっ!」 と俺に文句を言いつつも首に抱き着いてくるあたり早くこの場から去りたいんだろう。 俺が家に向けて歩き出すと、 「ちょ、ちょっと待てっ!せめてそれを返してから行けっ!!」 「いやっ!!」 ぎゅむむっ。 美鈴…前が見えない。首に抱き着くのはいいが、頭に抱き着くのは止めろ。 「……美鈴。お前一体このガキから何盗ったんだ?」 「ちょ、鴇お兄ちゃんっ!人聞きの悪い事言わないでよっ。これは元々私のなのっ!」 「いや、お前のじゃねーしっ!」 むむむむむっ! 美鈴とそのガキが睨み合ってる。 あー……さっぱり意味が分からん。 「何が
……。 …………おかしい。 何がおかしいのかと聞かれると、説明が難しいんだけど。それでもやっぱりおかしい。 僕の気の所為かな?とも思ったんだけど、でも…。 「ねぇ?鈴?」 「なに?棗お兄ちゃん」 にこにこ笑ってるはずの鈴ちゃん。それはいつも通り。 いつも通りなんだけど…。そう、いつもなら、僕達が鈴ちゃんの名を呼ぶと、「なぁに?葵お兄ちゃん」って優しく返してくれる。 それが、今は返事を返してくれはするけれど、どこか棘を感じると言うか…。 僕は優兎を手招きした。 気付いた優兎がテレビの前のソファから立ち、僕の側へ駆け寄ってくる。 「鈴ちゃん、何かあったの?」 こそっと聞くと、 「それが、良く解らなくて。夏休みが始まるまではむしろ上機嫌だったんですよ?」 夏休みが始まったのは一週間前。 って事は、一週間もこの調子ってこと? 「僕はてっきり佳織さんが何かやらかしたのかと…」 「その線もなくはないけど…」 佳織母さんにはむしろ、ここ数日鈴ちゃんは甘えたになってる気がする。 本当に何があったんだろう?何も出来ないってもどかしい…。 僕がじっと鈴ちゃんを見ると、小首を傾げて、にこにこ。 うん。可愛いよ?可愛いんだけど…。 どうしたらいいんだろう…? 僕も棗も鈴ちゃんにこんなに壁を作られた事がなかったからどうしたらいいか対処に困る。 そんな時、学校から帰って来た鴇兄さんがリビングのドアを開けて「ただいま」と入って来た。 天の助けとばりに僕達は鴇兄さんに視線を飛ばす。 けれど、鴇兄さんは僕達に視線を飛ばされずとも、すぐに鈴ちゃんの異変に気付いた。 「美鈴?ただいま?」 「うん。おかえりー。鴇お兄ちゃん」 にこにこ。変わらない笑顔。 鴇兄さんはそんな鈴ちゃんを見て、ふっと笑みを浮かべて鈴ちゃんを抱き上げて一緒にソファに座った。 珍しくジタバタと暴れる鈴ちゃんにやっぱり何かあったのだと僕達は確信して鴇兄さんの両隣に陣取る。優兎も僕の隣にある一人掛けのソファに座った。 「みーすーず」 ぎゅむっと両手でほっぺを包まれ、鈴ちゃんは強制的に鴇兄さんと視線を合わせさせられた。 「なに拗ねてるんだ?」 「ふみっ!?」 えっ!? 僕達は声に出さずに驚く。 え?え?鈴ちゃんは怒ってたとか何かあった訳じゃなくて拗ねてたのっ!?
階段の下。 旭が本を持ってうろうろしている。 家の階段は結構な高さがあるから旭一人だとまだ登れない。 多分美鈴に読んで貰いたくて、でも一階に美鈴がいなくてせめて階段下で美鈴が来るのを待っていたんだろう。 「旭。そんな所でどうした?」 理由は解ってる。が念の為に階段を降りながら尋ねると、 「おねえちゃんに『ほん』読んでもらうのー」 予想通りの答えが返ってきた。 旭は美鈴に懐いてる。きっと佳織母さん以上に懐いているし何なら美鈴を母親と見ていてもおかしくない。 そう言えば度々美鈴が旭と一緒に本を読んでいる時があったな…。 どんな風に読み聞かせしてるんだ? ちょっと興味が沸く。 「旭。美鈴なら部屋にいるだろうから、連れてってやろうか?」 言うと、旭の目が光輝いた。 階段を降り切って旭を抱っこすると、そのまま階段を逆戻り。 「それ何の本だ?」 「ももたろうっ!」 「桃太郎か。そんな本家にあったか…?」 美鈴が買ったんだろうか?それとも佳織母さんが嫁入りの時に一緒に持って来た? 首を傾げつつ階段を登り切って、真っ直ぐ美鈴の部屋へ向かう。 「あのね、ときにぃちゃっ。きょうこそはっ、だんじょん、くりあするんだよっ!」 むふんっ! 胸を張って旭が言う。…が、すまない、旭。兄ちゃんには何の事だかさっぱり分からないぞ? そのまま美鈴の部屋の前に立ち、ノックをすると、はーいって声と同時にドアが開いた。 「あれ?鴇お兄ちゃんに旭?どうしたの?」 「おねえちゃん、ごほんよんでっ!」 ずいっと差し出された…本と謎の一式。 「いいよ~。前回どこまでいったんだっけ~?」 旭を床に降ろすと美鈴が旭の頭を撫でながら問いかける。 「おばあさんが、『かわ』に『せんたく』しにいくための『せんたくいた』をげっとしたよっ!」 …………ん? ちょっと待て?桃太郎だよな? …………やばい。何かすっげー気になる…。 「美鈴。俺もちょっと聞いてっていいか?」 「え?うんっ、いいよ~っ」 許可をとって美鈴と旭が小さなテーブルの側にちょこんと座っているのを横目に俺は美鈴のベッドの上に寝転がってその光景を眺める事にした。 ……待て待て待て。何だ?その小道具一式は? 厚紙に美鈴が絵を描いたのか?カードみたいにきっちり切り揃えられてる所がまた芸が細かい。
「白鳥先輩~っ!」 名前を呼ばれて振り返る。 こんなに疲れて帰宅しようとしている私の足を止めるとは…良い度胸だよな。 爆弾テロとか起こしてくれやがった父の後始末。 事件当日は佳織や母がいたから何とか帰れたものの…後処理をしなければならない私はここ数日職場で寝泊まりしている。 それがようやっと目処が付きこうして家路につこうとしているというのに…。 「風間…。徹夜明けの頭に響く。でかい声だすな。喋るな。口を縫い止めてしまえ」 「え~、酷いっすよ~っ!こんなに先輩への愛で溢れてるのに~っ!」 「だから、うるせぇって…」 ガンガンと頭を叩かれてる。まずはその声を上げるのをやめてくれ。 「そんな事より、先輩っ!今日はもう帰れるんっすよねっ!?一緒に一杯行きませんかっ!?」 「断るっ!」 お前なんかと飲みに行くくらいなら早く帰って佳織を抱き締めたいっ! ……………頭の中に美鈴の自重してねって言葉が届いた気がした……。 まぁ、その本音を置いとくとしても、それはそれとして、もう何日も職場に缶詰にされてたんだ。 今日はとっとと帰って家で待ってる子供達と飯を食いたい。 まだ時間は18時前だ。今から帰れば確実に晩飯に間に合う。 さっさと帰るぞっ! 足を一階入口に向かって早足気味に動かす。 「で、何処に食いに行きます?」 「……お前、人の話聞いてたか?それとも態とそう言って息の根止められたいのか?」 いつの間にか隣に並んだ後輩に呆れ半分、殺意半分で言うとそいつは驚いて目を見開いた。 「え?オレ何か悪い事言いましたっ!?」 無自覚かよっ!! こっちは腹の中に溜まりにたまった溜息を盛大に吐き出しているというのに、風間はきょとん顔だ。 「悪いが風間。私はここ数日缶詰め状態でやっと家に帰れるんだ。今日は何処にも寄るつもりはないんだよ。今日くらいは家族の顔を見て飯を食いたい」 「あ、あー…成程ー。そんじゃ、オレを家に招待してくださいっ!」 「……お前、ほんっと人の話聞かねぇなっ!?私は、家族水入らずで飯を食いたいんだよっ!!」 「あ、大丈夫っすっ!オレ、水はいらないんでっ!!」 ……なぁ、誰か、私に教えてくれ。なんでこんな馬鹿がSPに、警察になれたんだ…? 「大体、お前だって久しぶりの帰宅だろ?家族に会いたくないのか?」 「……………そ
「絶対嫌ぁっ!」 ……可愛い。 鈴ちゃんが必死に僕に抱き着いて教師の懇願を叩き斬っている。 「そんな事言わないで。白鳥さんの為にもなるのよ?」 「嫌っ!!絶対絶対嫌っ!!」 どうしてこんなに教師と格闘しているのか。その理由を僕は知らないし、目の前にいる鈴ちゃんのクラスの担任教師も僕に教える気がないのか絶対その内容を口には出さない。 ただ、鈴ちゃんが嫌だと僕に抱き着いて、その鈴ちゃんの腰を引っ張って話を聞かせようとする担任教師の姿。 …大きな株?確かそんな童話があったよね? ぼんやりと遠い目をしていると、そこへ龍也が通りかかった。 「……何してるんだ?お前ら」 「何してるんだと聞かれると、鈴ちゃんと先生の攻防戦としか言いようが…」 そしてそれに僕が巻き込まれているとしか…。 大体十分くらい前。授業が始まる前に日直の僕は先生から日誌を受け取ろうと職員室に来た。 すると、そこで鈴ちゃんが教師と言い合いをしていて。 一体何にそんなに騒いでいるのだと、鈴ちゃんに歩み寄ると、教師は一瞬だけ眉をよせて、鈴ちゃんは僕の存在に喜んですぐさま抱き着いてきた。 「先生が何と言おうと、どう説得しようと嫌なものは嫌ですっ!!」 そこから鈴ちゃんは僕に抱き着いたまま「嫌」の一点張り。 正直全く要領を得ない。 「とにかく白鳥さん。そんな風にお兄さんに抱き着いたままじゃ話も出来ないでしょう?一旦離れて私と二人で話しましょう?」 「嫌ですっ!」 「白鳥さん…」 はぁと大きくため息をつく教師に僕は一体どうしたらいいのか少し戸惑う。 鈴ちゃんの味方をしてあげたいけど。内容を聞かない事にはどうにも…。 「葵お兄ちゃんっ。葵お兄ちゃんは私の味方だよねっ?ねっ?」 「うん。勿論味方だよ」 「じゃ、じゃあ、今日は一日お兄ちゃんの側にいてもいいよねっ?ねっ?」 「それは…僕としては大歓迎だけど。僕のクラスで授業を受ける事だって鈴ちゃんにとっては全く問題ないとは思うんだけど…でも、鈴ちゃん。いいの?」 「え?何が?」 「僕のクラスって事は、こいつがいるよ?」 親指で後ろにいる龍也を指す。 ピシッと鈴ちゃんの表情が固まった。 「おい…。なんでそこで固まるんだ」 鈴ちゃんが固まった事により、腕の力が緩み、 「さぁ、白鳥さん。こっちで話を詰めましょうっ」